ノート#1:人生100年時代の健康長寿と歯科医療

歯科ノート著者村井健二

人生100年時代といわれるいま、歳を重ねても、出来るだけ病気から遠ざかり、健康で自立した生活を送ることは、家族みなの願いです。

このコラムでは健康長寿であるために、今なぜ歯科医療が大切なのか、考えてみたいと思います。

それでも歯の治療を先に延ばしますか?

歯の健康は、全身の健康に深く関わっています。噛み合わせが悪くなると、栄養が十分に取れなくなったり体のバランスが崩れたりすることがあります。歯を失うことで起こりうる問題を考えながら、以下、歯と体のつながりの重要性を挙げてまいります。

人生100年時代になぜ歯科医療が大切なのか
人生100年時代になぜ歯科医療が大切なのか

栄養の摂取

栄養の摂取、つまり食べ物をしっかり食べることは生きる力に直結しています。実に日本人の死亡原因の6割、医療費の1/3を費やしている病気は生活習慣病です。生活習慣病は、バランスの良い食事を摂ることでだいぶ回避出来ることはご存知の通りだと思います。歯がないことは、噛みにくいこと、噛めないことにつながり栄養が偏ります。つまり健康的な食生活が難しくなってしまうということ。しっかり噛める歯を保つことが大切なのです。

体のバランスを保つ

片足にハイヒール、もう一方は裸足のままでバランス良く歩けるでしょうか……嚙み合わせが合わないことは、このようにバランスが崩れた状態に似ています。最初は1本の歯を失っただけでも、治療せずにいると、徐々に隣の歯、周りの歯を失うことになります。歯がなかったり、噛み合わせが悪いと、徐々に顔つきも変わります。頚椎が曲がり腰椎が曲がり、不定愁訴の原因になることもあります。不定愁訴とは、頭痛、イライラ、疲労感、眠れないなど、なんとなく体調が悪く検査でも原因がわからない不調のこと。噛み合わせを合わせた途端、背筋がシャキッとなり歩けるようになる患者さんがいらっしゃいます。噛み合わせの悪さはそのままにせず、適切な治療によって整えることで、人間は体のバランスが保つことが出来るのです。

認知症の予防

食事を噛む理想的な回数は、1口当たり20から30回。しっかり噛むことによって肥満の防止にも効果があります。また、ちゃんと噛めることによって、認知症を予防することも出来ます。データ上でも明らかですが、歯のある人や良く噛める人と、飲み込みの食事しかしてない人とでは、認知症になる割合に明白な差が生じます。噛むことで脳の血流が増加するので、しっかり噛むと脳の血行が良くなり脳の衰えを抑えていくことが出来ると考えられています。

歯周病予防で全身管理

歯周病と全身との関係は密接です。歯周病菌が血中に入ると、血液が全身を巡ることにより全身的影響を及ぼします。例えば、細菌性肺炎、心臓血管病、低体重児出産、早産ということにも影響が出てくるという報告があります。歯周病をコントロールすることによって糖尿病をコントロール出来るということも、だんだんと明らかになってきています。

誤嚥性肺炎の予防

咀嚼がしっかり出来ない状態は、高齢者の死亡原因にも多い誤嚥性肺炎の要因となります。口腔ケアがおろそかだと、細菌が唾液を通じて気道に入り食道ではなく肺の方に流れ、誤嚥性肺炎という状態が生じます。また、飲み込む力の衰えも誤嚥性肺炎の原因となります。やはり重要なのは、しっかり噛むこと。噛む効果は、初期においては顎を発達させ、噛み砕くことで消化を助けます。唾液分泌の促進も消化を助け、唾液を出すことでドライマウスの予防にもなります。あまり噛まないでいると唾液腺が刺激されず、その状態が恒常的になれば唾が出にくくなり、口腔内が乾燥したままになってしまうことがあります。

自分の歯でしっかり噛むことが健康長寿につながる

あなたは一本の歯を失ったとします。たった一本……人から見えないし、残っている他の歯でも十分に噛めるからこのままでも大丈夫点……と思ってしまうかもしれません。

でも、歯を一本失う、このことをきっかけにその後にさまざまな弊害が出て、病のスパイラルを引き起こすきっかけとなる、と聞いたらいかがでしょうか。上に掲げた通り、歯は、体の健康と直結しており、それは一本の歯を失うことから崩壊し始めます。

口の健康こそが健康長寿を実現する
口の健康こそが健康長寿を実現するのです

歯の神経がズキズキ痛む、虫歯が痛くて噛めない、歯が無くてものが噛めず飲み込むしかない……考えただけでも辛い状況ですが、このように口の具合が悪いことは、食事をきちんと食べられないことに直結します。食事が偏り栄養が不足し、やがて力が出なくなりなります。

食べ物の玄関口である口の健康が、いかに重要であるか理解いただけると思います。自分の歯でしっかり噛めることが健康長寿につながります。歯を守ることで健康を守りましょう。