
ここでは、生活習慣病と歯の関係について考えてみたいと思います。
生活習慣病に歯が関係あるの? と思われる方もいらっしゃるかもしれません。”大あり”なのです。それどころか、全身の健康を保つために歯科医療があると考えていただきたいと思います。
健康的な生活習慣を支えることが歯科医療の使命
歯科治療とは何かといったとき、歯だけを治すことと捉えがちですが、そうではなく、全身の健康を保つために歯科医療があるという風に考えていただきたいと思います。私はインプラントの専門医でもありますが、もちろん入れ歯であっても、補綴であっても、歯を全部揃えて噛めるようにしていくことが非常に大切だと考えます。歯の治療でしっかりと噛める状態を整え、健康的な生活習慣を支えることが歯科医療の重要な使命です。
噛めないことによって起きる弊害
しっかり噛めていますか? 良く噛まないことによって起きる一番の問題点は何でしょう。噛むことがしっかり出来てていないと、いわゆる早飲みになり、ひいては肥満という状態になります。
実に日本人の6割の死亡原因になっている生活習慣病は、高血圧、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症など、生活習慣が発症原因に深く関与していると考えられている疾患の総称です。このような疾患と肥満を複合する状態を、メタボリックシンドロームと総称します。
死因別死亡割合
厚生労働省「平成22年人口動態統計」-健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料-より

噛む行為は、脳の中にある満腹中枢を刺激します。満腹中枢が刺激されることで、人間は食事の満足感が得られるわけです。ということは、歯がないとか、揃ってない状態で、ものを食べるとどうしても流し込むような食事になります。
そうなるといくら食べても満腹中枢の方に信号が行かず、結果として過剰な食事につながることがあります。大量の食べ物しかも噛み砕かれてないものが胃に落ちると、胃には非常なオーバーロードが掛かるという風に考えてください。
全身の健康を保つための歯科医療
日本人の死の原因は、次の円グラフの資料の通り、以下の順となっています。
- 悪性新生物(腫瘍)
- 心疾患
- 老衰
- 脳血管疾患
- 肺炎
- 誤嚥性肺炎
- 不慮の事故
主な死因の構成割合
出典:厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況」

1位は癌ですがそれ以外は、いわゆる”メタボ”関連が目立ちます。メタボリックシンドロームは、ウエスト周囲径が男性85cm 女性90cm以上で、血中脂質、血圧、血糖のうち2つ以上の項目に異常値がある方を指します。この状態を続けると10年後に何が起こるか……虚血性心疾患、狭心症、心筋梗塞の危険度が、正常な人に比べ36倍になるとされています。
噛めないことで高まる窒息死のリスク
上記「主な死因の構成割合」による、死亡理由の第7位にある不慮の事故について、少し前の数字ですが平成20年不慮の事故による死亡数を種類別に構成割合でみると、窒息が24.7%で最も多くなっています(以下に掲げる資料参照)。年齢別にみると、5~9歳から65~69歳までは交通事故が最も多くなり、年齢が高くなるにつれ転倒・転落や窒息が多くなっています。
出典:厚生労働省「年齢階級別にみた不慮の事故の種類別死亡数構成割合-平成20年-」
- 窒息死 9,419(24.7%)
- 交通事故 7,499(19.7%)
- 転倒 7,170(18.8%)
- 溺死 6,464(16.9%)
- 火災 1,452(3.8%)
咬合支持がないほど窒息事故を起こしやすい
それではなぜ窒息死が起こるのかについてですが、きちんと噛める方がものを詰まらせて死ぬというなことは、少ないことがわかります。
歯の欠損があってちゃんと噛めない状態になってしまうと、窒息事故のリスクが非常に高くなっていくとデータがあります。右のグラフで明らかなとおり、全部歯が揃ってるような方は窒息事故にも遭いにくいことがわかります。
咬合支持と窒息事故
出典:厚生労働省「食品による窒息事故に関する研究結果等について-平成20年-」

生活習慣病の予防は、歯の健康から
しっかり嚙んで食べることは、そのまま全身の健康に直結する行為です。生活習慣病の予防は、歯の健康から。歯の不具合や欠損が自然に治ることはありません。しっかり噛めていないと思われる歯があれば、今はなんとか大丈夫でもそのままにせず、10年後の健康のために歯科医院で治療してください。
