部分入れ歯は、欠損した歯に隣接する天然歯を支えとして引っ掛けるように装着されます。部分入れ歯を入れている患者さんには隣の歯が痛いから診てほしいという方がとても多いのですが、その際に次のようなご質問を受けることがあります。

部分入れ歯を支えている自分の歯が悪くなるって本当でしょうか!?
残念ながら、これは本当です。その理由を説明していきたいと思います。
御輿(みこし)の担ぎ手が減れば負担も増える
歯とは本来、上下の顎に親不知を除く14本ずつの合計28本で、咬合力、つまり噛み合わせる力を分散させる構造となっています。この28本全ての歯が健康な状態で、咬合力を補い合うことが理想的な状態であることはいうまでもありません。
部分入れ歯を支えている歯の影響を考えるとき、御輿を担ぐ人の数が減る状況に例えるとわかりやすいかもしれません。今まで28人で担いでいた御輿を20人で担ぐことになって負担が増えるうえに、その中の数人は8人分の担い手をカバーしなければならないのです。いなくなった8人分をカバーすることになった数人がバテてしまうのは時間の問題なのです。
こうした負担は、歯においても同じです。抜けてしまった歯の前後の隣接した数本の歯が部分入れ歯を支える役目を請け負います。その結果、部分入れ歯を支える歯に負担が増え、健康であった歯自体も弱ってしまうのです。失った歯を補うため装着された部分入れ歯の支台歯の負担というものは避けられないものであり、遅かれ早かれバテてしまうことは、御輿の担ぎ手が疲弊することと同じ構造なのです。


部分入れ歯を支える歯が痛い理由
ご自身の歯が抜けた跡に部分入れ歯を装着することとなった場合、抜けた歯が負担していた咬合力は、以下2つが代わりとなって支えることになります。
- 歯槽粘膜(歯ぐき):部分入れ歯が直接接する部分
- 鉤歯(こうし):部分入れ歯を維持するための蟹の爪のような形の金具(クラスプ)を引っ掛ける歯
支台歯が痛くなるのは、そもそも負担が大きい構造上の問題と併せて、次のような症状が派生するからです。もし金具のバネ(クラスプ)が強く締め付けられていれば、装着や取り外しの度に負担が掛かって、痛みをともなうことがあり、さらに歯周病などでその歯が弱っている場合は、バネに引っ張られ動き痛みが生じるということも考えられます。
部分入れ歯を支える歯に負担が掛かるのは避けられない
クラスプの場合、部分入れ歯を取り外す度に栓抜きのような力が加わるため、歯が揺さぶられることでさらにその寿命を縮めることになります。こうした負担を軽減し残っている歯を守るためには、力学的な設計が重要であり、これはクラスプを使わない部分入れ歯の維持歯やブリッジの支台歯にも当てはまることです。
部分入れ歯を支える歯に負担がかかるのはどうしても避け難いことです。その負担を軽減するためには、力学的設計の工夫やインプラント治療を取り入れることが有効です。もし歯を失った場合は、残された歯を守ることを歯科医師に相談し、出来るだけご自身の歯に負担の少ない治療法をお探しください。


公益社団法人日本口腔インプラント学会 指導医・専門医・代議員・広報委員
九州大学病院歯科医師臨床研修管理委員会委員・協力型施設施設長・指導医
公益社団法人日本補綴歯科学会 専門医
特定非営利活動法人近未来オステオインプラント学会指導医・監事
京セラインプラント公認インストラクター
高度総合歯科医療研究会 会長
臨床歯科インフォームドコンセント推進協議会 会長
一般社団法人京都府歯科医師会立京都歯科医療技術専門学校 元副学校長
公益社団法人日本口腔インプラント学会 第34回近畿北陸支部学術大会(平成27年開催) 実行委員長