ノート#4:骨粗鬆症から全身の健康を考える

歯科ノート著者村井健二

今回は、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)と全身の健康について、歯科医療の視点から検証してみます。

骨粗鬆症は、骨が弱くなる病気ですが、実は歯を支える歯槽骨にも影響を与えます。

骨粗鬆症が全身に与える影響や予防方法など、健康寿命を延ばすためのポイントをお伝え出来ればと思います。

骨粗鬆症とは

骨粗鬆症(オステオポローシス)は、骨の密度が低下してスカスカになり、骨折しやすくなる病気です。特に女性に多く、更年期以降にホルモンバランスが崩れることで骨の吸収速度が速まり、骨の形成が追いつかなくなることで発症します。骨粗鬆症になると、骨がもろくなるため、転ぶなどのちょっとした衝撃でも骨折しやすくなります。

骨粗鬆症のデータ

  1. 日本国内での推定患者数:約1,100万人
  2. 女性人口の約5人に1人が骨粗鬆症に罹患
  3. 年齢別の罹患率
    • 50代 20%
    • 60代 30%
    • 70代 40%
    • 80代 50%
2012年日本骨代謝学会発表の「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版」より

データから見えることは、年齢とともにほぼ半数の方が骨粗鬆症になるということです。こうなると骨粗鬆症は、国民病と言っても過言ではありません。

骨粗鬆症と歯科治療の関係

骨粗鬆症が進行すると、歯を支える骨(歯槽骨)にも影響が出ます。歯槽骨が弱くなることで歯が抜けやすくなったり、歯科治療が困難になるケースもあります。

具体的な影響

骨粗鬆症の方の歯科治療では、特に抜歯の治療において、顎骨壊死(がっこつえし)を引き起こす可能性があります。これには骨粗鬆症の方に処方される薬、ビスフォスフォネートが関係しています。

ビスフォスフォネートとは

略称:BP製剤。骨を壊す活動と骨吸収を抑え、骨を強くする薬剤。骨折などの危険性を低下させる目的で、骨粗鬆症を始めとする症状に処方される。ビスホスホネート系製剤として、内服薬や注射、点滴用で多数存在する。

重大な副作用として、薬剤性顎骨壊死がある。歯科治療では、BP系製剤を投与されている患者に抜歯の処置をした際に骨が感染し、抜歯後の穴が治癒せず骨が露出したままとなり顎骨壊死を生じるリスクが高くなる、と考えられている。

抜歯によって骨にダメージが加わり、顎骨壊死や骨髄炎などの重大な合併症を引き起こす可能性があるため、ビスフォスフォネートを使用している患者さんに対しては、抜歯が必要な状態にあっても治療が難しいケースがあるのです。

生活習慣と骨粗鬆症の予防

骨粗鬆症は、老化現象として仕方のないことと思われがちですが、実際には生活習慣によって予防出来る部分が多くあります。骨粗鬆症予防に重要な要素としては、次に挙げるような日々の習慣が大切でしょう。

食生活

  • カルシウムやビタミンD、マグネシウムを意識して摂取する
  • 乳製品、小魚、緑黄色野菜などを積極的に取り入れる

運動習慣

  • 軽めのジョギングやウォーキングなどの負荷をかける運動が有効
  • 特に下肢の筋力を鍛えることが転倒防止につながる

口腔内の健康維持

  • 8020運動(80歳で20本以上の歯を保つ)を意識
  • よく噛むことで骨への刺激が促され、骨密度が維持される

実際、20歯以上ある人の低骨密度率は約7%ですが、20歯未満の人では32%に達します。つまり、歯の健康と骨の健康には相関関係があるということが、わかります。

骨粗鬆症が健康寿命に与える影響

骨粗鬆症の進行が及ぼす最大のリスクは、転倒・骨折です。

骨折後のデータ
大腿骨頸部骨折 → 1年以内の死亡率が約10%
骨折後の寝たきり期間 → 平均6年以上
寝たきりになると、身体機能や認知機能が急速に低下し、健康寿命が短縮します。

日本の健康寿命と介護期間=平均寿命
男性 72.3歳 6.1年
女性 77.7歳 7.5年

噛む力が健康寿命を左右します

骨粗鬆症は全身の健康に大きく影響を与える疾患です。しかし、食事・運動・歯の健康を意識することで、予防や改善できる可能性があります。しっかり噛める口腔環境の維持を意識することで、健康寿命を延ばし、介護期間を短くすることにもつながる場合があります。ぜひ今から、噛むことの大切さを意識してみてください。もし、歯を失った場合には、インプラントや入れ歯など、適切な補綴を行って噛む機能を回復することが大切です。