
「歯を1本失ったくらいなら大したことはない」今回はそう思っている方にお伝えしたいことがあります。歯の喪失は、単なる“噛みにくさ”にとどまらず、全身の健康にまで影響を及ぼします。
歯科医師の視点から、歯の喪失がどのように全身の健康を脅かすのか、また負の連鎖をどう食い止めるか、についてお伝えします。
歯の喪失が生む、生活習慣の乱れと疾患の連鎖とは
多くの人は、生活習慣が乱れると、肥満やメタボリックシンドロームの問題を抱えるようになります。生活習慣が改善されない限り、体の不調はさらに重篤な病気へと進行し、最悪の場合は命に関わる事態にもなりかねません。
歯科医療の視点では、こうした悪循環の一里塚となるのが「咀嚼障害」つまり、うまく噛めない状態と見ています。
噛む力が衰えると、「噛みにくい」「噛むと痛い」「うまく飲み込めない」といった理由から、食べ物の選択肢が自然と限られてきます。結果として柔らかくて食べやすいものばかり選ぶ食生活から栄養のバランスが崩れ、全身の健康を損なっていくことにつながります。
- 硬い
- 噛みにくい
- 飲み込みにくい
- よく噛むことが面倒になる
- 繊維質を避けがちになる
- 小魚など噛みにくいものが増える
タンパク質(肉・魚・卵など)
筋力、免疫力の低下
ビタミン・ミネラル(野菜・海藻類)
便秘、肌荒れ、疲れやすさ
食物繊維(根菜、葉物野菜)
腸内環境の悪化、血糖値の急上昇
カルシウム(小魚、乳製品)
骨粗鬆症リスクの上昇
噛みにくさがさまざまな栄養素の摂取不足となり、その結果、糖質過多・たんぱく質不足・ビタミン不足という悪循環が起きやすくなり、体力が落ちる、代謝が悪くなる、慢性的な疲労感を感じるといった状態を招きます。ちゃんと噛める方、ちゃんと噛んでいる方、あるいはちゃんと食べてる方はそこを止めることができると考えています。
お口は身体の玄関口 歯の病気は細菌感染から始まる
みなさんもご存じの通り、お口は体の玄関口です。そしてここは体の中でも最も細菌の多い場所のひとつです。もし細菌が繁殖して細菌感染が起きると、どんなことが起こるでしょう。
- 虫歯
- 歯周炎
- 骨吸収
- 歯根破折
- 奥歯の喪失
- 入れ歯の鉤歯やブリッジの支台歯の喪失
- 上顎前歯欠損
- 遊離端欠損(奥歯の欠損)
- 多数歯欠損
- すれ違い咬合
- 多数歯欠損
- 無歯顎
- 肥満
- 糖尿病
- 高脂血症
- 高血圧
- 動脈硬化
- 認知症
- 脂肪肝
- 肝硬変
- 腎臓病
- 狭心症
- 心筋梗塞
- 脳卒中
- 肝不全
- 腎不全
- 心不全
- 呼吸不全
場当たり的な治療では不十分です
「とりあえず痛いところだけ治してください」と来院される方は少なくありません。お忙しいでしょうし、時間もお金もかかりますし、痛いかもしれない。ですが、痛いところだけ治療したらおしまいという場当たり的な処置だけを繰り返していては、健康を保てる約束は出来ません。歯科医師の立場から言わせますと、そんなことしてていいんですかということなのです。病気や命の危険にかかわる負のスパイラルを逆転させるためには、
- 口と体の調和を考えた歯科医療を受ける
- 痛いところだけ(場当たり的)の治療をやめる
- 良く噛めないことは、多くの病気の引き金になる
- 歯を失うスパイラルを食い止める
現在のライフステージに合った 、ベストな治療を受けましょうとお伝えしたいのです。
失った歯の「再建治療」という選択
すでに歯を失ってしまった場合でも、入れ歯・ブリッジ・インプラントなど、患者さんのご年齢やお口の状態、コストやライフステージに応じて最適な治療法を選ぶことが可能です。大切なのは、「今のご自分に合った最善の選択」を知り、納得して治療を受けることです。情報不足のまま治療を避けてしまうのではなく、信頼できる歯科医師とよく相談し、正しい知識をもって判断していただきたいと思います。

歯は「食べる」ためだけの器官ではありません。体全体の健康と密接に関わっています。歯を失うことから始まる“負のスパイラル”を断ち切るためにも、お口の健康を意識した生活を心がけていただきたいと思います。