インプラント治療のリスクやトラブルを回避するには

インプラント治療のリスクやトラブルを回避するには

「インプラント治療はトラブルが多い、リスクがある」というような評判を耳にし不安を覚える方もいらっしゃるのではないでしょうか……。虫歯や歯周病などの一般的な歯科治療と異なり、インプラント治療は、欠損した歯の顎の骨にインプラント体を埋入し人工歯を装着する治療法であり外科手術を必要とするため、注意すべきリスクが存在することも事実です。

インプラント治療は、機能性の点でも、また審美性においても優れた治療法なのですが、治療期間も長く、また治療後、インプラントを長持ちさせるには、患者さん自身も丁寧なメインテナンスに取り組んでいかねばなりません。本稿では、インプラント治療にともなうトラブルの例を紹介するとともに、リスク回避の対策を、患者さんの立場に立って説明しておりますので、最善の治療を探るための判断材料としてください。

インプラント治療にともなうリスクやトラブル

インプラント治療ににおけるリスクやトラブルは、具体的にどういったものがあるのでしょうか。代表的なリスクとトラブル、またインプラント治療を決断する前に確認しておきたいポイントを以下にまとめてみました。

治療期間と費用に関するトラブル

インプラント治療は、最短でも2~3ヶ月、長い場合は7~8ヶ月程度の期間を要することが一般的です。顎の骨を増やす必要がある場合には、治療に2年間を要することもあるため、総じて治療期間が長くなることについては心得ておく必要があるでしょう。

治療費にまつわるトラブルも事前の理解が必要です。インプラント治療は基本的に保険が適用されないので、1歯あたり約数十万円の費用がかかることについて認識しておきましょう。巷では、1歯10万円以下などと安さを謳っている歯科医院もあるようですが、適切な治療が行われていない、治療後のアフターメインテナンスが整っていない、などの問題も想定されるため注意が必要です。

治療前の検査や診断の不備によるリスク

安全かつ計画的にインプラント治療を行うためには、治療前の詳細な検査や診断が欠かせません。これらを十分に行わなかったために、治療を進めていく過程でトラブルが起こったり失敗に繋がったりするリスクが生じます。

外科手術によるトラブルと偶発症

インプラント治療は外科手術をともないますので、歯科医師の技術や知識が不十分であることに起因するトラブルの可能性が考えられます。歯科医師の人為的なミスによって神経麻痺が起こるリスクもゼロではありません。

また、治療する際に偶発的に生じる不都合な症状である、偶発症の危険性も考えられます。偶発症については患者の体質や体調に影響されることもあるため、リスク判断が非常に難しいのですが、経験値が少なく専門知識の乏しい歯科医師による処置が予期せず大きなリスクを招きがちです。

メインテナンス不足による感染症のリスク

インプラント治療そのものに問題がなかったとしても、治療後に患者さんがセルフケアを怠った、定期検診に通わなかったなど、メインテナンス不足による感染症が起こってしまうことがあります。そうした場合には、再手術が必要となってしまったりインプラントが抜けたりすることも考えられます。

リスクやトラブルを予防するには

上記に挙げたものはあくまでも代表的なリスクやトラブルで、実際にはケースバイケースで様々な問題が生じます。しかし代表的な事象であれば、その予防策も以下のようなポイントで対処出来るであろうと想定されます。

治療計画書や見積書などで治療期間と費用の事前確認

インプラント治療を開始する前に、歯科医院が提示する治療計画書、見積書、治療同意書(承諾書)にしっかり目を通して理解しましょう。わからない点や疑問が生じるのであれば、歯科医師に質問してください。

どの程度の治療期間がかかるのかについては治療計画書に、費用については見積書に記載されています。確認の際は、総合的な金額はおおよそいくらか、治療完了までに他にかかる費用はあるのか、といったポイントに留意してください。

歯科用CTなどによる治療前の検査・診断

インプラント治療にあたって、事前に行われる検査について出来るだけ精密に行うことを心掛けている歯科医院を選択しましょう。例えば、インプラント治療で欠かせないとされている検査方法に、歯科用CTを用いたものがあります。

歯科用CTならば、3次元画像で立体的に断層を確認することが可能です。骨の位置や厚さだけではなく、神経や血管の詳細な位置についても判断出来るため、これらを傷つけるリスクを軽減することが出来ます。

信頼の置ける歯科医院の選択

インプラント治療が始まれば、それ以上は担当歯科医師に任せざるを得ませんので、信頼出来る歯科医院・歯科医師を選ぶことが何よりも重要です。インターネット上の評判やホームページに公開している実績数等も判断材料としてよろしいのですが、むやみに治療を急がず、治療前の丁寧な説明を心掛けているかどうかを見極めていただければと思います。

適切なメインテナンスの実施

インプラント治療後は、メインテナンスとして毎日のセルフケアはもちろんのこと、歯科医院で定期検診を受けることが大変重要です。それなりに気を付けていても、自分では取り除けない汚れが蓄積してしまいがちですので、定期メインテナンスでお口の健康を維持し、出来るだけインプラントを長持ちさせましょう。

インプラントはリスクを案ずる以上に魅力的な治療法

インプラント治療のリスクやトラブルは、安さだけを売りにしたインプラントが跋扈する状況と表裏一体ともいえます。歯科治療の世界においても、安かろう悪かろうという面は確実に存在しています。そうした問題は別にしても、インプラント治療の安全性を高めるための心構えや対策は、歯科医師と患者間で確かな意思疎通がなされているかが前提であると考えます。そういう意味において同意書の存在は、二者間の齟齬を避けるためのひとつのツールなのです。

もし歯を失ってしまえば、インプラント治療はその歯の働きを補うものとして最も適しており、機能面でも審美性においても優れている治療です。信頼出来る歯科医院を選び適切な治療を受けられる状況さえ整っていれば、おおよそのリスクは回避可能です。ぜひ安全性を担保し、安心して前向きにインプラント治療に臨んでいただきたいと思います。


この記事は専門医師により監修されています
歯科医村井健二のプロフィール

公益社団法人日本口腔インプラント学会 指導医・専門医・代議員・広報委員​
九州大学病院歯科医師臨床研修管理委員会委員・協力型施設施設長・指導医
公益社団法人日本補綴歯科学会 専門医
特定非営利活動法人近未来オステオインプラント学会指導医・監事
京セラインプラント公認インストラクター
高度総合歯科医療研究会 会長
臨床歯科インフォームドコンセント推進協議会 会長
一般社団法人京都府歯科医師会立京都歯科医療技術専門学校 元副学校長
公益社団法人日本口腔インプラント学会 第34回近畿北陸支部学術大会(平成27年開催) 実行委員長