ご自身がインプラント治療中にも関わらず、引っ越しをしなければならない場合、それまでと同じように治療を継続出来るものか、不安を覚えることでしょう。もちろん、インプラントの治療中だからといって引っ越しを断念出来るものでもありません。しかし、一般的な虫歯治療などに比べ圧倒的に高額な治療であり、インプラントのメーカーによって専用器具が存在するなど、インプラント治療の特性を踏まえると、やはり転居先で通院する歯科医院は慎重に選択する必要があります。
インプラント治療中や治療後に転居する場合、どのように治療もしくはメインテナンスを受けるべきなのか解説するとともに、関連して歯科治療補償制度についても触れてまいります。
インプラント治療中に引っ越し出来る!?
インプラント治療中、引っ越しをすることは可能です。治療中の通院状況は、数ヶ月に1回程度となるでしょうから、通える距離なのであれば極力そのまま同じ歯科医院への通院をお勧めします。仮に遠方に引っ越すことになり、やむを得ず転院を検討しなければならない場合は、確認すべき点や注意点があります。
まず、転居前までに治療中の歯科医院に転居する旨を伝え、インプラント費用の精算や、転居先で探さなければならない歯科医院について相談しておきましょう。特に、転居先の歯科医院選びは重要です。仮にインプラントの部品(主に上部構造)が必要になったとき、転居先の歯科医院が同じインプラントメーカーの専用器具に対応していないと、治療を受けられなくなるケースがあるからです。現在の担当医師に、インプラントのメーカーやサイズについて確認を取っておきましょう。
またインプラントは自費診療のため、歯科医院によって治療費が異なります。転院先では新たに支払いが必要になるため、治療にかかる総額は高くなることが予想されますので、その点は認識しておきましょう。
インプラント治療後に引っ越した場合の留意点
では、インプラント治療後のケースではどうでしょうか。治療を終えて引っ越しする場合のメインテナンスにも、以下の挙げるような留意すべき点がございます。転居先の歯科医院で治療を受けられないという事態を避けるために、転居の前に確認しておいてください。
紹介状を出してもらう
インプラント治療中に引っ越しが決まった場合、引っ越しする前に、担当歯科医師に紹介状を書いてもらいましょう。紹介状には、インプラントの種類、治療経過等、転院先でメインテナンスの処置を継続してスムーズに受けられる情報が記載されています。併せて、インプラントカードをもらっておくこともお勧めいたします。インプラントカードとは、治療に使用していたインプラント情報が記載された用紙です。
保証制度の範囲や期限を確認する
引っ越し前に受けたインプラント治療の保証制度の範囲や期限について、確認してください。保証制度は、仮にインプラントに不具合が起きたときの修復、手術費用を歯科医院が負担するものです。しかしながらこの保証は、インプラント治療を施した歯科医院以外で治療を受けた場合、保険の対象から外れることがほとんどありますので、確認が必要です。また、インプラント治療医院で定期検診を受けることが条件になっているケースも多いようです。
こうした保証内容は、歯科医院によって異なります。引っ越す前に、担当歯科医師に実際に会って、保証内容や期間を確認するのも良いでしょう。
引っ越し先でも定期的にメインテナンスを受ける
一番肝心なことは、転院先でも定期的にメインテナンスを受けることです。定期健診でインプラントを長持ちさせられるほか、歯全体の寿命を延ばすことにつながります。引っ越しの忙しさにかまけたり、通い慣れない歯科医院ということで尻込みしたりすることもあるかもしれませんが、インプラント治療後の歯の健康のためには、定期的なメインテナンスの機会を作ることが、引っ越しするしないに関わらず重要なのです。
引っ越しが決まったら、まず担当歯科医師に相談を
最近は、保険会社による治療保証制度を採用している歯科医院も増えてきています。保証機関によって認定された歯科医院同士であれば、転院後でも治療を受けた歯科医院の保証が継続されるシステムで、保証内容としてインプラント10年保証などがあり、インプラント治療後の不具合やアクシデントもサポートされますので、こうした制度を導入している歯科医院を選ぶことも有効でしょう。ただし、治療費に保証料が含まれている場合と、患者の希望による任意の加入となっている場合とがあります。
結論として、インプラント治療中の引っ越しは可能ではありますが、費用の問題や適切な転院先について、担当医師に予め相談しておくことが求められますので、怠らないようしてください。その際には、転院先に紹介状を書いてもらうことや、インプラント治療の保証制度や期間の確認も必要になってきます。インプラントの寿命を長くするためにも、転居にともなう歯科医院選びは慎重に行い、転院先での定期的なメインテナンスを心掛けましょう。

公益社団法人日本口腔インプラント学会 指導医・専門医・代議員・広報委員
九州大学病院歯科医師臨床研修管理委員会委員・協力型施設施設長・指導医
公益社団法人日本補綴歯科学会 専門医
特定非営利活動法人近未来オステオインプラント学会指導医・監事
京セラインプラント公認インストラクター
高度総合歯科医療研究会 会長
臨床歯科インフォームドコンセント推進協議会 会長
一般社団法人京都府歯科医師会立京都歯科医療技術専門学校 元副学校長
公益社団法人日本口腔インプラント学会 第34回近畿北陸支部学術大会(平成27年開催) 実行委員長