銀歯とセラミック 審美性やコストで比較すると

一般的な虫歯治療でよく用いられる素材に、銀歯とセラミックがあります。セラミックは、保険適用外ながら審美性などに優れるというメリットがあり、銀歯は、口を開けたときに目立ってしまうものの保険診療のため治療費が安く抑えられるメリットがあります。

患者さんとって見た目や費用の問題は重要だと思いますが、口腔内で用いる素材をそれだけの判断材料で選ぶことは適切ではありません。本稿では二者を総合的に比較していますので、治療過程で銀歯とセラミックのどちらの素材を選ぶか迷っている方は、参考にしてください。

銀歯とセラミック それぞれの特徴

銀歯の特徴

歯科治療で一般的に銀歯と呼ばれるものは、正式名称を金銀パラジウム合金といい、金、銀、パラジウム、銅などから構成されている素材です。

銀歯は、1960年代から保険適用されており治療費を抑えられるメリットがあり、患者にとっては長く安価な素材として受け入れられてきました。また、高い強度があり、口の中で強い力がかかる部分にも使用されます。歯と歯の間の虫歯や、虫歯が大きかったりする場合など、多くのケースで銀歯が使用されています。

セラミックの特徴

セラミックといえば陶磁器のことも指しますが、素材としては、無機物を加熱処理し焼き固めた無機固体材料と定義されます。透明感があり天然歯に近い色合いが出せるという特徴を活かし、セラミック製の詰め物や被せ物として失われた歯を補う治療に用いられます。

セラミックにはいくつか種類があり、金属に焼き付けられた「メタルボンドセラミックス」、セラミックだけで出来ている「オールセラミックス」、オールセラミックスの中でも人工ダイヤモンドの素材で作られた「ジルコニアセラミックス」、レジンとセラミックを混ぜ合わせて作られた「ハイブリットセラミックス」などがあります。

銀歯とセラミックの比較

審美性

セラミックの大きな特徴は、透明感があり天然歯と同じような色を再現出来ることです。また、色の類似性だけでなく、色のグラデーションや、ツヤ感の再現も可能です。天然歯と並べたときに違和感がないので、口を開けたとき目立ちにくく周囲の人から気付かれにくいでしょう。特に全てセラミック素材で作られるオールセラミックスは、審美性に優れているといえます。

現在では、審美性と強度を兼ね備えた「モノリスティックジルコニア」という新しいオールセラミッククラウンが実用化されています。

筆者つぶやき

100kgを超える強い咬む力や温度変化、水分など、口の中はとても過酷な環境です。かつては欠けたり剥がれたりしやすかったセラミックも、今では割れにくく美しい素材が登場し、世界中で臨床応用が進んでいます。

一方、銀歯は口を開けたときに天然歯の中でどうしても目立ってしまいます。また、金属は口腔内でイオン化して徐々に溶け出していくため、歯ぐきの黒ずみの原因になることがあります。

  • 天然歯に近い色、ツヤ感の再現が可能
  • よって、口を開けたとき目立ちにくい

生体親和性

体内で異物によって生じる組織反応の程度を示す「生体親和性」において、セラミックは、歯肉へのなじみが良い素材です。アレルゲンになることは、ほとんどありません。

一方、銀歯は金属アレルギーのリスクがあります。金属アレルギーは、口腔内の金属から溶け出した金属イオンが体内で吸収されることが原因で起きます。よく見られる症状としては、口内炎や唇の腫れ、全身の発疹などです。銀に対して金属アレルギーを持たない方でも、銀歯の金属イオンがきっかけでアレルギーを発症するケースもあります。もしアレルギーを発症してしまった場合、銀歯を撤去し金属を含まない素材で治療し直すことになります。

  • 生体親和性が高い

治療費用

銀歯は保険診療の対象になるため、セラミックと比べ安く作ることができます。歯の位置によっても変わりますが、保険診療で歯の被せ物を作る場合は、数千円程度に費用を抑えられることが多いです。

一方、セラミックを使う治療は自費診療のため、保険適用の治療と比べて高額になります。セラミックの費用は歯科医院によって異なりますが、高いか安いかで選ばず、その歯科医師の経験や技術、また、セラミックを選ぶメリットが治療代に見合っているかどうかを検証することが重要です。

筆者つぶやき

歯科医師自身が自分の歯を治療する際、(仮の歯を除いて)保険の材料を使うことはほとんどありません。理由は、自由診療の素材のほうが、見た目の美しさや耐久性において優れているからです。もちろん費用の違いはありますが、長く快適に使えることを考えると、自由診療の素材には大きな価値があります。

  • 保険診療の対象になる

メンテナンス性

セラミックには、歯垢が付着しにくく除去しやすいというメリットがあります。また、耐久性が高く長期間使えるのも利点です。ただし長持ちさせるためには、歯磨きなど日々のセルフケアに加え、定期的に歯科医院で検診を受けるなどのメンテナンスも重要です。

一方、銀歯はセラミックに比べメンテナンスしにくいといわれます。なぜなら、表面に歯垢が付着しやすく劣化しやすい性質を持っているからです。さらに、金属素材ゆえに腐食による変形が起こりやすく、土台の天然歯との間に隙間が生まれ細菌が入り込み、虫歯が再発してしまうことがあります。また、天然歯より硬いため、噛みあう歯を傷つける恐れがあり、再治療が必要になるケースもあります。よって銀歯がある方は、セルフケアや定期健診をより心掛けていただきたいものです。歯茎が黒くなっていたり、銀歯の下の歯茎が腫れていたりする場合は、既に銀歯自体の寿命が来ている可能性があります。

  • 歯垢が付着しにくく除去しやすい
  • 耐久性が高く長持ち

詰め物被せ物の素材として優れているのはセラミック

詰め物や被せ物などにセラミックを選択すれば、銀歯の場合より治療費が高額になるのは事実です。しかし見た目の問題や生体親和性、さらに治療後のメンテナンスにおける優位性など、長い目で見ればセラミックの方が優れているといえるでしょう。虫歯治療の素材として適しているのはセラミックです。

筆者つぶやき

セラミックの歯をぴったり合うように作るには、高い技術が必要です。最近はコンピューターで設計・製作する「CAD/CAM」という方法もありますが、機械だけでは再現しきれない部分もあります。

たとえば、熟練した技工士が丁寧に仕上げた歯と、経験の浅い人が機械で作った歯とでは、細かなフィット感に差が出ることがあります。やはり人の手による繊細な技術が、今でも大切な役割を果たしています。

歯を失ったときの治療法として、セラミックや銀歯を用いる治療の選択肢以外に、インプラントがあります。インプラントは、主に、生体親和性が高く、強く噛みしめても強度のあるチタン素材が使われています。審美性という点でも、天然歯と同じような見た目になることが特徴です。銀歯かセラミックかで迷われている方は、インプラント治療も検討してはいかがでしょう。


この記事は専門医師により監修されています
歯科医村井健二のプロフィール

公益社団法人日本口腔インプラント学会 指導医・専門医・代議員・広報委員​
九州大学病院歯科医師臨床研修管理委員会委員・協力型施設施設長・指導医
公益社団法人日本補綴歯科学会 専門医
特定非営利活動法人近未来オステオインプラント学会指導医・監事
京セラインプラント公認インストラクター
高度総合歯科医療研究会 会長
臨床歯科インフォームドコンセント推進協議会 会長
一般社団法人京都府歯科医師会立京都歯科医療技術専門学校 元副学校長
公益社団法人日本口腔インプラント学会 第34回近畿北陸支部学術大会(平成27年開催) 実行委員長