インプラント治療では、ネジのような形をしている人工歯根を顎の骨に埋め込み、その上部に人工歯を装着するものですが、人工歯根には主にチタンという素材が使用されています。生体との親和性が高い金属であることから、1960年代からインプラントにはチタンが用いられています。インプラントの素材として、圧倒的にチタンが選ばれるその理由とは? また、選ばれるようになった経緯はどのようなものだったのでしょう?
インプラントの人工歯根にチタンが使われる理由
インプラントの人工歯根にチタンが使われる理由は、主に生体親和性が高いこと、アレルギーを起こしにくいこと、この2点です。
生体親和性が高いから
生体親和性とは、体内で異物によって起こる組織の反応の、程度のことです。生体親和性が高いほど、体になじんでいることになります。異物に対して大きな拒否反応が出るのであれば、生体親和性が低いといえます。
チタンという金属材料は生体親和性が高いことが知られる素材で、骨と強く結合する性質を持っています。体内で異物として認識されないので、チタン表面の細部にも新しい骨が入り込んでいき、インプラントをしっかりと固定出来る利点があります。
アレルギーを起こしにくいから
チタンは金属の一種ですが、金属アレルギーを引き起こしにくい素材です。なぜなら、チタンは空気に触れる表面が強力な酸化物で覆われていて、安定性や耐食性が優れているからです。生体親和性も高く体内でのなじみが良いことから、インプラント以外の医療分野でも、人工心臓や人工関節に使用されています。
ただし、絶対に金属アレルギーが起きないわけではないので、治療前に皮膚科でパッチテストを受けることをお勧めします。チタンアレルギーの発症頻度は、パッチテストで0.5%という愛知学院大学歯学部の報告があります。他の金属にアレルギーがある方は発症の可能性が高いとされています。
インプラントにチタンが使用されるようになった経緯
チタンが骨と結合しやすいという特性は、1952年、スウェーデンの整形外科医であるペル・イングヴァール・ブローネマルク教授が偶然に発見しました。動物実験中に、骨の中に埋め込まれたチタンを除去できなかったことから、チタンは骨と強固に結合するという発見を導き出しました。
ブローネマルク教授がチタンの特性を発見して以降、チタン製インプラントの研究や開発が始まり、1965年には初めてチタン製のインプラントを患者の顎の骨に埋入することに成功しています。ブローネマルク教授は、このチタンを用いたインプラントの方法を「オッセオインテグレーション・インプラント」と名付けています。オッセオは「骨の」、インテグレーションは「統合」という意味があります。
また、インプラントと骨の結合させるには、インプラントの表面が滑らかな状態より、わずかに粗い状態の方が、強固なオッセオインテグレーションを得られるとされています。
オッセオインテグレーションの期間
チタンが骨と強固に結合するといっても、手術後すぐに結合するわけではありません。チタンが骨と結合するまでに要する時間、すなわちオッセオインテグレーションの期間は一般的に、上顎で5~6ヶ月、下顎で3~4ヶ月かかるといわれています。上顎と下顎で結合するまでの期間に差があるのは、骨の構造が違うからです。
もちろん、結合に要する期間は、顎の骨の硬さや埋入後固定した状態によって異なります。近年、チタンの素材や表面処理方法、保存方法などの工夫によって短縮される傾向にありますが、それでもオッセオインテグレーションには数ヶ月を要しますので、インプラントの埋入後から結合までの期間は、機能的な力が強く加わらないように気を付ける必要があります。

公益社団法人日本口腔インプラント学会 指導医・専門医・代議員・広報委員
九州大学病院歯科医師臨床研修管理委員会委員・協力型施設施設長・指導医
公益社団法人日本補綴歯科学会 専門医
特定非営利活動法人近未来オステオインプラント学会指導医・監事
京セラインプラント公認インストラクター
高度総合歯科医療研究会 会長
臨床歯科インフォームドコンセント推進協議会 会長
一般社団法人京都府歯科医師会立京都歯科医療技術専門学校 元副学校長
公益社団法人日本口腔インプラント学会 第34回近畿北陸支部学術大会(平成27年開催) 実行委員長